公園とまちづくりが考える
まちづくりの意義とこれから
公園とまちづくりが考える
まちづくりの意義とこれから
■これからの時代のまちづくりとは?
国内の総人口は2010年頃から一貫して減少しており、このような状況は千年単位でみても極めて急激な変化と言われています。人口減少は地域差が激しく、大都市への人口の流入、地方のさらなる人口減少超高齢化の進行により、消滅自治体の可能性も危惧されています。
従来までは国や都道府県の技術的な助言に従い、他の区市町村と同じような施策を行えば、まちは発展していましたが、今は個別条件に合わせた独自のまちづくりが求められています。消滅自治体を背景にした自治体サバイバル時代の到来ともいえます。
各々の区市町村では創意工夫しながら、若い世代が継続して住み・働き・家族を作ることができる子育て世代が住みやすいまち、若年人口の定住促進と出生数の増加、そして高齢者が健康で生きがいのある生活を送れるまちを、さらに地域住民に密着したサービス業の振興、商店等の魅力向上と創業支援など、多くの市民が活躍できるまちを目指し、より一層まちの魅力を高めていくことが重要となっています。
また他方では、成熟社会を迎え、人々の価値観が変化し多様化しています。充実感・満足感・生活の質の向上・心の豊かさなどを求める多様な市民ニーズに対応していくことが、求められているのです。
このような状況では、従来のような行政主導、行政単独型のまちづくりでは、限界があります。
人口減少超高齢化が進行する中での多様な市民ニーズに対応したまちづくりでは、地域連携・市民協働を積極的に推進し、行政と住民、地域の事業者が連携した総力戦で取り組む要がありますが、課題も多くあります。市民協働は、行政単独で施策や事業を実施するのではなく、地域住民や地元の事業者と連携協力して、二人三脚で取り組むことが大切です。しかし行政側の対応は、施策や事業を『市民にお願いしてやってもらう』か、『ほとんど決めてから、市民に説明して批判や反対にあってしまう』という大体2つのパターンに分類されます。
さて、そろそろ住民対応の発想を転換し、変化する時代や人々の価値観に対応できる第三の道を検討すべきではないでしょうか。「ユーザー視点のまちづくり」です。
■行政・個人・地域の課題を共有する
行政が抱える課題は、人口減少超高齢化社会の進行、社会保障費等の増大、老朽化した公共施設の維持管理や大規模修繕など、数多くあります。では、地域や市民の課題は、どうでしょう?
「困っていること、やってほしいこと」「個人的に悩んでいること、改善したいこと」など、個人個人は、色々な悩みや問題を抱えています。では個人の課題と地域の課題の違いはなんでしょうか? それは、「一人だけでなく、多くの人々が改善したいと思っていること」「改善すれば、地域がより良くなり、まちが住みやすくなる」ことなどです。そこで個人の課題と地域の課題、行政の課題、そして、まちづくりについて、具体的な事例として西東京市における市立公園の苦情・要望への対応から考えてみましょう。
西東京市の公園に関する苦情は、毎年400~500件あります。どの自治体でも公園樹木の剪定、除草、遊具の破損、公園清掃、犬の飼い主のマナーなど苦情は多いものです。そこで、苦情・要望について単に処理するだけでなく、可能な範囲で当事者に、近所の知人友人も同様な問題を抱えていれば、「一緒に話し合いましょう」と集めてもらい、小さな懇談会、話し合いを行いました。これにより、最初は苦情要望という個人の課題だったものが、地域の課題となり、解決策も行政と市民が一緒に考えていくことが可能となります。
この取り組みは、非効率的に見えるかもしれませんが、行政側だけで解決できる課題は僅かです。多くの問題の解決は、市民の皆さんの協力が必要となり、話し合う中で、みんなで考え、行政と市民が二人三脚で課題の解決に努めていく姿勢が大切なのです。
■西東京市における「ユーザー視点のまちづくり」による課題解決の事例
例えば、公園の砂場における衛生問題、「砂場に犬猫のフンが放置され衛生的でないので解決してもらいたい」との苦情要望については、苦情者に知人友人を集めてもらい、その問題を話し合い、さらに解決方法も話し合う中で、対策のための砂場を覆うシートを行政が提供し、管理は地域住民・砂場を使う市民が行うことになりました。『市民が対策用の砂場シートを管理する』という小さな出来事ですが、話し合いの中で市民が公園管理の一端を担うことは、素晴らしいことです。さらに砂場付近の自主的な清掃活動も始まり、砂場の衛生問題を市民と行政の二人三脚で解決できました。
また、別の公園でのフンの放置など犬の飼い主のマナー問題では、苦情者に知人・友人を集めてもらい、話し合いを重ね解決策を検討する中で市民グループができ、市民が作ったマナーアップのチラシを市が印刷しました。市民と行政が一緒になって該当公園でチラシを配布したところ、その課題が解決してしまいました。チラシ配布では、多くの市民が集まり、チラシを受け取る市民よりチラシを配布する市民の方が多かったくらいでした。さらに市民が自主的に近隣の住宅にポスティングもしてくれました。地域住民と行政が二人三脚で協力することは、課題の解決にとても有効です。
次に、多くの自治体でも課題となっている市立公園でのボール遊び問題について考えます。『子どもたちが公園でボール遊びをしたいが、禁止されている。』『子どもたちが公園で遊んでいると、公園内を歩いている大人たちに怒られ自由に遊べない。』といった苦情についてです。例のごとく、苦情者に知人・友人を集めてもらい、公園内にシートを敷き、話し合いを行います。そのときは当事者である子どもたちも母親たちと一緒に参加し、問題を話し合い、解決策を検討しましたが、良い案は浮かびませんでした。とりあえず自由に遊べる時間を月に数回該当公園でつくり、その時間帯は市民自ら管理をすることで、試行的に自由に遊ぶ時間をつくりました。市民が短時間でもその一瞬は、安全管理や苦情対応も考え管理する立場になることが大切です。すぐに解決策は生まれなかったものの、だんだんと自主的な市民グループ「おもいっきり遊び隊」も誕生し、子どもが自由に楽しみながら遊べることができるイベントを主催するなど、ボール遊び問題から始まった「子どもたちを自由に遊ばせたい」という市民の思いは、市民の主体的で自主的な取り組みによって解決されました。このような取り組みは、子育て世代自身が快適なまちを自らつくっていくことに繋がっていくのです。
このような苦情・要望から始まる市民協働の取り組みにおいて、苦情者の中に、地域の知人・友人を集めてくれる方と集められない方がいます。地域の方々を集められる方は、肩書も町会の役職もない場合が多いですが、地域のリーダー、草の根の地域リーダーです。良識のある草の根リーダーの方々と地域の問題を話し合いながら課題を共有化し、具体的な解決に向けた取り組みを協力して行うことで、公園を活用して、楽しく快適なまちをつくり、そして行政課題の解決を目指していくことも可能となります。
トッププダウンによる行政単独型のまちづくりから、公園をキーワードにした市民協働・地域連携による草の根のボトムアップによるまちづくりの推進です。
■「ユーザー視点のまちづくり」を支える公民連携・指定管理者制度
また、幼児から高齢者まで多様な世代が利用する公園は、人々のレクリエーションの空間、豊かな地域づくりに資する交流の空間など、さまざまな機能と役割をもつまちづくりにとても有効な公共施設です。
公園を活用した市民協働事業を進めるにあたっては、小さな話し合いを丁寧に、かつ数多く行うことが重要です。これにより地域の課題も明らかになり、その解決策も一緒に考えながら、市民の主体的で自主的な活動を支援していくことが可能となるのです。市民主体の地域課題の解決、快適な地域を目指す市民による取り組み、市民主体で魅力あるまちづくりを行うことも可能となります。
しかし、行政だけでは、担当職員の頑張りだけでは、地域連携・市民協働取り組みの継続・発展が難しいのが実情です。そこで継続し発展させていくための「仕組み(システム)」が必要となります。
従来からの市民協働の取り組みを継続し、発展させていくため、エリアマネージメントも考慮し、民間活力とそのノウハウを活用した「仕組み」としての公民連携として、市民協働・地域連携を推進するための公民連携・指定管理者制度[i]を考えました。2015年に公募(選定委員に2名公園ボランティアが参加)を行い、2016年4月には、単体でなく拠点となる西東京いこいの森公園を中心とする中小規模公園も含む50公園、市内6分の1の区域に導入しました。指定管理者の公募条件等については、主体的な市民との話し合いの中で明らかになった地域の課題とその解決策、主体的な市民の活動をより促進する内容などを示し、市の考え方や方針を明確にしました。市民協働の取り組みを背景に常駐の市民協働担当を指定管理者内に配置するなど、地域連携や市民協働を積極的にかつ継続的に推進していくことが可能となり、さらに市立公園の所管課にも市民協働担当(指定管理担当兼務)を配置し窓口を一本化したことで、市と指定管理者が効果的に連携することができました。
指定管理者は、委託の延長でなく、行政の良きパートナーとして「管理を代行」するという趣旨を踏まえ、自由裁量と収益事業の実施、そして公園への還元は前提ながら、収益は人件費も含め公園をよりよくするための費用として活用でき、自由度の高い公園経営が可能となっています。
[i] 市民協働・地域連携推進型の公民連携・指定管理者制度
委託の延長でなく、行政側は民間の能力と活力などを最大限引き出すように努め、公園単体でなくエリアマネージメントも考慮して拠点公園を中核に中小公園を含む一定の地域に導入する。指定管理者は、自由度の高い公園経営を行いながら、地域連携や市民協働の経験とノウハウを持った人材(市民協働担当)を配置した上で、公園ボランティアの育成や市民協働の相談業務の充実、市民協働・地域と連携した事業などを積極的に推進できる仕組み
■課題の根っこを知り、時代や地域の実情に合ったサポートを考える
現在は、今までの経験やノウハウをもとに、様々な自治体の市民協働や主に公民連携のアドバイザーとして活動しておりますが、最初に行うことは行政職員のヒアリングです。公民連携の目的の一つが行政課題の解決です。課題とその解決の方向は、行政職員の中にあります。ヒアリングと職員研修会も交えて課題解決の方向を職員の皆さんと一緒に検討していくことが重要です。
公民連携の次の目的は、地域課題の解決です。地域の課題とその解決の方向性は、地域住民の中にあります。そのため地域住民とのヒアリングを数多く行い、地域の課題を明らかにしながら解決策についても一緒に考え、さらに公民連携事業の公募条件等への反映方法等についてもアドバイスしていますが、行政側が単に苦情・要望を聞いて反映させるのではなく、市民自身も主体的に「携わっていく」、「担っていく」、「共に作り上げていく」という考えで、市民と行政、指定管理者等民間事業者が二人三脚で取り組む姿勢が大切なのです。
[1] 市民協働・地域連携推進型の公民連携・指定管理者制度
委託の延長でなく、行政側は民間の能力と活力などを最大限引き出すように努め、公園単体でなくエリアマネージメントも考慮して拠点公園を中核に中小公園を含む一定の地域に導入する。指定管理者は、自由度の高い公園経営を行いながら、地域連携や市民協働の経験とノウハウを持った人材(市民協働担当)を配置した上で、公園ボランティアの育成や市民協働の相談業務の充実、市民協働・地域と連携した事業などを積極的に推進できる仕組み